数週間前、ご近所のS井さんが引越すのでご挨拶に行った。S井さんは多分70代後半。年上だったご主人は一年前に亡くなり、ご夫婦には子供もいない。だから、奥さんは故郷に戻り、妹さんと暮らすと言っていた。
S井さんのご主人は生前、猫を可愛がっていて、野良猫たちに去勢や避妊手術をして餌やりをしていた。
ご主人が亡くなった後、私はS井さんとちょっと距離を持つようになった。玄関を開けると、猫のマーキングの臭いが強くなり、それが私にとっては苦痛だったから。
だけど、S井さんが引越す数週間前ご挨拶に行った。
「猫がいっぱいいるの、どうなるの?」
「知らないわよ!うちの猫じゃないんだから!野良がこうやってくるのよ!もう餌もあと二日分しかないから、それで終わり!」
私は猫の事は全くよく解らなかったので、状況を理解できていなかった。
猫たちはどうなるのだろうって、毎日S井さんの家の周りにいる猫たちを観察した。一匹の黒い猫が気になり、S井さんにその猫を世話する事にした。S井さんに伝えると、とても喜び、「一匹だけでもありがたい。この子は見ててあげないと餌をほかの猫に取られるから、心配しとったんよ」といい、何度も何度も手を合わせて「ありがとう」といった。
私はその猫にリラと名前をつけた。
その猫は、メスでご主人が生前に避妊手術をしてして耳をカットしている猫。
避妊や去勢をした野良猫は耳をカットして、さくら猫といわれているらしい。
リラを捕獲して、家で飼おうとやってみたが、ケージにいれたリラはストレスからか、毎日何度もトイレをひっくり返す。みんなは数週間で慣れるから出してはいけないというか、猫には猫のコミュニティがあるのか、玄関の前に他の猫が来て、リラと話をしている(ようだ)。
悩んだ挙句、リラをケージから出した。
翌日から、朝夕6時ごろ、リラは玄関の前にちょこんと座っている。
猫には体内時計のようなものがあり、餌をくれる人や家を覚えるのだと知った。
しばらく、これで様子を見る事にした。
私が猫の話を切り出したときと、リラの世話をすると言った時のS井さんの反応の違いから、この地域での猫の事での近所の方々とのS井さんの関係が垣間見れた。そして、この町で、猫が何年もの間とても問題となっていたことを知り始めた。