白石昌子様

CDを受け取りました。
気に入っています。

今、JMMというメールマガジンを発行しているのですが、白石さんのことを以下のように紹介しました。
名前は出していませんし、HPのURLも出していません。

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編集長より

Q:109への回答ありがとうございました。債権放棄に伴うモラルハザードという設問だったわけですが、米山さんからのご指摘にもあったように、モラルハザードという言葉が一人歩きしている感もあります。また、わたしは設問の中に「中小企業は恩恵を受けていない」と書きましたが、債権放棄という形ではなくても、信用保証協会の特別保証枠や民事再生法によってそれなりの利益を得ていることがみなさんの回答によってわかりました。

先日、九州に住む女性読者から、ある雑誌の編集部を通して一枚のCDをプレゼントされました。添えられていた手紙によると、彼女は中学生の頃、映画『グレン・ミラー物語』を観て、アメリカの「古き良き時代の」ポピュラーミュージックが好きになり、20歳でNYに行きます。アルバイトをしながら、学生ビザをキープし、大好きな音楽を聴きながら、約8年間NYで暮らし、同時にアメリカンスタンダードポップス(アメリカの流行歌)のボーカルレッスンも始めます。

そして昨年の暮れに、第二次大戦の頃のアメリカの流行歌を、その時代を生きたミュージシャンと共に自費でレコーディングし、そのCDをミレニアムのクリスマスプレゼントとして、アメリカ全土の要介護老人ホームに送ります。わたしがプレゼントしてもらったのは、そのCDだったわけです。著作権の関係でしょうが、そのCDは市販することができないそうです。アメリカ全土の要介護老人ホームへクリスマスプレゼントして送る、という彼女の行為をわたしは偽善だと思いませんでした。
彼女には、日本人である自分がアメリカのポピュラーソングを歌うことへの正統な疑問もあります。そして、「あなたたちの歌はまだ生きている」ということを伝えたかったという彼女のモチベーションには曇りがありません。

そのCDですが、わたしには好感の持てるものでした。「I’ll Walk Alone」に始まって、「Sentimental Journey」や「It’s Been A Long Long Time」などわたしの世代には懐かしい名曲が続き、最後には「White Christmas」が入っています。オーソドックスなアレンジで、オーソドックスな演奏で、そして歌い方も極めてオーソドックスで、アメリカンスタンダードポップスへの愛情と敬意があふれています。そして、かすかにハスキーな彼女の声は非常に可愛いと思いました。
その女性は現在、九州のある都市でラウンジホステスをしながら、自費レコーディングの借金を返しているそうです。

「借金は返すのが当たり前と考えている普通の人の常識によって理解できる説明が求められています。そして、方針の説明をするということは、同時に、結果について責任をとるということの表明でもあるのです」
児玉さんはQ:109の回答にそうお書きになっていました。
別にモラルハザードという言葉ではなくても、退廃でも不信感の醸成でも何でもいいのですが、債権放棄に関して説明がなく責任が曖昧になることのもっとも有害な点は、社会にあきらめのようなものが蔓延することではないかと思います。
ある言語学者は、コミュニケーションにはいくつかのフェイズがあるが、「自分はコミュニケーションを企てている」というメッセージを発したり受けたりすることがまず重要であると指摘しています。会話を禁じられている囚人が隣りの独房の壁を叩くのは、「コミュニケーションの企て」があることを示そうとするからです。自分はコミュニケートしようという意志を持っている、というメッセージです。一種のメタメッセージといってもいいかも知れません。

「借金は返すのが当たり前と考えている普通の人の常識によって理解できる説明」のメタメッセージが、債権放棄に関わる銀行や企業から発せられているとはとうてい思えません。
そういったメタメッセージが充分ではない社会は退廃します。どのように退廃するかは、この一ヶ月ほどの新聞の社会面を見るだけで充分でしょう。


2000年5月
JMM(Japan Mail Media)