シオマラ・ラウガー
1993年


朝日のようにさわやかに|SOFTLY, AS IN A MORNING SUNRISE
フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン|FLY ME TO THE MOON
ゴールデン・イヤリング|GOLDEN EARRINGS
枯葉|AUTUMN LEAVES
恋はいつも未知なもの|YOU DON’T KNOW WHAT LOVE IS
マイ・ファニー・バレンタイン|MY FUNNY VALENTINE
オール・オブ・ミー|ALL OF ME
ドリーム|DREAM
チーク・トゥ・チーク|CHEEK TO CHEEK

スペイン語の歌詞と日本語訳


このCDを聞く人はどのようなレコーディング風景をイメージするのだろうか?

陽光がよりそそぐ中、海辺の、コテージ風に造られたスタジオで、ラムを飲みながら、「ノリのいいところで一発行こうぜ」というリーダーのかけ声のもとに全員和気あいあいと・・・・・・・とんでもない。

レコーディングに立ち会った私は、神経がボロボロになるくらい疲れた。

今、ビデオを見ると、知らない人はきっと拷問だと思うだろう。

ジャズでいうところのアドリブとはまったくちがう。インプロビゼーション、 またはクラシックで言うカデンツァ、いや日本語で堅苦しく、「即興演奏」と書くのが最もぴったりくるかも知れない。

キューバを代表する(ということはほとんど世界を代表するということだ)、トランペットのホアン・ムンギア(イラケレ)、トレスギターのパンチョ・アマット、(アグルベルト・アルバレス)、アルト、ソプラノサックスのヘルマン・バラスコ(パブロ・ミラネス)らが、僅か12小節のソロを演奏するのに、20も30もテイクを重ねるのだ。

「いいソロだが、2ヶ所バックのリズムから外れたぞ」

「そのコンセプトでいくんなら、さっきのソとレの音が変だ」

私が、すごいソロだ、と思ったものを、音楽監督のホセ・ルイス・コルテスは、容赦なく捨てていく。しかし、それは演奏者を信頼しているからだ。

こんなジャズは、どこにもなかった。

シオマラ・ラウガーは、レコーディングの前、異様なくらい怯えていた。

「本当に、わたしにうたえるのだろうか?」

私は言った。

「ボクは、サラ・ヴォーンもエラ・フィッツジュラルドも、ヘレン・メリルもクリス・コナーも、カーメン・マクレエも聞いたことがある。あなたの声と表現力は、彼女達に決して負けない」

そう言い続けた。

レコーディング中は気付かなかったのだが、シオマラの声と歌い方は、非常にシリアスで、切実な何かを感じる。それは、悪く言えば遊び心がないということになるが、キューバ人にとって、基本的に音楽は遊びなんかではないのである。

まあ、キューバのことについては、これまでエッセイやインタビューでたくさん触れたので、このCDではとにかく、あるスピード感と、快地よい刺激を理屈抜きに楽しんで貰いたい。

特にお勧めしたいのは、「ソフトリー・アズ・イン・ナ・モーニング・サンライズ」におけるシオマラの中低音域の柔らかく滑らかでそれでいて気品のある気だるいボーカル。「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の、パンチョ・アマットのトレス・ソロ、トレスギターは伝統的なソンに主に使う楽器で、ジャズを演れるとはキューバ人でさえ最初信じなかった。

「ゴールデン・イヤリング」におけるダゴベルトのバイオリン・ソロ、シオマラの愁しみをたたえた歌声、「枯葉」における、ホセ・ルイス・コルテスの信じられないフルート、フェリシアーノ・アランゴの、シンコペーションをたっぷりと効かせたベース・ソロ、更にエミリオ。モラレスのバド・パウエルを思わせるピアノ・ソロ、そして、「チーク・トウ・チーク」の圧倒的なブラスのリフ!

もう何も言うことはない。

とにかく聞いてみて下さい。
私は、この音楽をプロデュースしたことに心から誇りを感じています


ホセ・ルイス・コルテス(フルート、編曲、音楽監督)
ミゲル・アンヘル・デ・アルマス(キーボード)
フェリシアーノ・アランゴ(ベース)
カリスト・オビエド(ドラム)
パンチョ・アマ(トレス)
スペシャルサンクス・アルテックス株式会社

カルロス・アベロフ(テナーサックス)
ファン・ムンギア(トランペット)
スペシャルサンクス・イラケレ

ヘルマン・ベラスコ(アルトサックス)
ダゴベルト・ゴンザレス(バイオリン)
スペシャルサンクス P.M.レコーズ

エミリオ・モラレス(ピアノ)
スペシャルサンクス エグレム

セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルス (スペイン歌詞)
ホルへ・マソー・ムステリエル「一彼の協力に感謝しますー」

Produced by:Ryu Murakami
Recorded & Mixed:Ramón Alom Suarez
Remixing Engineer:Tuneo Matsumoto
Shinpachiro Kawade
Mastering Engineer:Machiko Suzue
Art Director & Design:Tomoaki Sakai
Photo by Atsushi Kondou
Translator:Yukiko Yoshino

Supervisor:lkuo Nabeta
Tamio Suzuki(Sony Records)

Special Thanks to Genichi Yamamoto(Shuei sha)
Takurou Kawanabe(Music ln)
Caridad Diez(ARTEX)
Mirtha Flieche(ARTEX)
Haruhiko Kouno