Cabaret Panorámico(Échale Limón)
NG ラ バンダ
1993

1. CONGA NEGRO CANSA”O”|コンガ、疲れた黒人
2. MURAKAMI MAMBO|ムラカミ・マンボ
3. CLUB 4 CHA-CHA-CHA|クラブ・クアトロ・チャチャチャ
4. DANZON RIO SUMIDA|ダンソン・リオ・スミダ
5.SANTA PALABRA|聖なる言葉、サンタ・パラブラ
6. BOLERO ADVERTIDO |油断なき男のポレロ
7. COMO PANTERA|まるで豹のように
8. EL TRAGICO|問題児
9. ECHALE LIMON|レモンをふりかけろ
Autor y Arreglista: José Luis Cortés


ホセ・ルイス・コルテス インタビュー

 

NGラ・バンダの来日コンサートはとりあえず大成功だった。

NGはやっぱりすごいバンドで、このくらいのことはやってくれるだろう、ということをしっかりやってくれた。

それで充分だ。

すこしは私の言うことがわかって貰えただろう。

私達が普段この国で聞いているほとんどのものはとても「音楽」とは言えない。

「コンセルバトール(音楽学校)では最初バイオリンをやったんだが、まったくモノにならず、いつも泣いてたよ。この俺がだよ、泣いてたんだからよっぽど辛かったんだろうな。そのうち、管楽器の教授が、唇がフルートに向いていると言ってくれたんだ。それでフルートをやり始めた。」

「革命後、キューバには旧東ヨーロッパから、クラシックの演奏家がたくさんやってきて、彼らが非常に水準の高いクラシックを、選び抜かれた若い連中に教え始めた。もちろんすべての学校は授業料なんて要らない。楽器が上達していく過程は楽しかったが、クラシックだけしか演奏できないというんで、イライラもしてたんだ。」

「ムラカミもよく知っている通り、キューバ音楽の伝統はものすごく豊かだ。ありとあらゆるリズムがあり、曲も本当に美しい。だが我々はキューバ音楽を演奏するのを禁じられていた。今から考えるとそれは正しかったのかも知れない。徹底的にクラシックを叩き込まれたおかげで、オレもそうだが、他の、今の NG のメンバーも非常に高いテクニックを身につけることができたんだからね。」

「面白いこともあったよ。キューバ音楽は楽しい、とよくみんな言うが、だって、音楽を演奏するのは楽しいじゃないか。悲しい気分で音楽をやるなんてオレ達には無理だね。ある時、ある曲を、教授に、『悲しみを込めて吹きなさい』と言われた。そんなことはできなかったよ。どんな悲しい曲だって、演る時は楽しいんだ。」

「それでも、ある時機がくると、どうしてもキューバ音楽をやりたくなって、仲間と教授の目を盗んでやり始めるようになった。で、それが見つかると、休日の外出が禁止になるという毎日だったね。だって、クラシックはオレ達の音楽じゃない。誰だって、いずれ自分達の音楽をやりたいと思うのは当り前じゃないか。」

「オレはロス・バン・バンの創立に参加して、その後イラケレに入った。本当はチェコへの音楽留学が決まっていたんだが、素行が悪いというんで、ダメになった。教授の目を盗んでキューバ音楽を演ったりとか、そういうのがよくなかったんだろうね。ロス・バン・バンとイラケレというのはタイプは違うけど、二つともキューバを代表するトップバンドだったが、1980 年代の半ば頃から、昔の、音楽学校の仲間と共に、セッションバンドを作って、ジャズを演り始めた。それが、NG ラ・バンダの母体だよ。」

ホセ・ルイスが集めたメンバーは、本当にすごい連中だった。

「コンサートもそうだが、レコーディングも驚いただろう。あんなアンサンプルの曲をあれだけ早い時間で録音できるのは、うんと昔のアフロ・キューバか、最盛期のイラケレしかいないと思うよ。メキシコやアメリカやプエルト・リコのバンドだったら一ヶ月かかるだろう。一年でもできないかも知れない」

NGは新曲六曲を含む全九曲のレコーディングを二日で終わった。

ミックスダウンを入れて、四日間でCD一枚を作ったことになる。

「それはこういうことなんだ、NGのドラムもシンセもピアノもベースもアルトサックスも他の国だったらリーダーになって自分のバンドを持っているような連中ばかりだ。でもキューバではスーパーな存在でいた方が便利なのでNGにいまのところ集結している。だからあんなことができるんだよ。」

「ジャズからは多くの影響を受けた。オレ自身、いろんな国のジャズフェスで演奏したことがある。どうやってジャズを勉強したかというと、マイアミから入るラジオを誰か一人が録音して、それを全員でコピーしたりしていた。しかし、ジャズがすべてかというとそんなことではない」

「マイルス・デイビスのコンサートのビデオを見たことがあるが、あるソロパートでマイルスは客に背を向けてトランペットを吹いていた。あれはないよ。だって、誰のために演奏しているんだ。皆のためじゃないか。自分のためにやってるわけじゃない」

「ジャズをやりたいわけじゃない。ジャズは一つのアイテムとして使う。オレ達がやりたいのはフュージョンだ。サルサではなくジャズ・フュージョンバンドと呼んで欲しいんだけどな」

フュージョンというとアメリカ西海岸のゴミのような音楽を思い浮かべてしまうが、ホセ・ルイスが言ってるのは、「異種溶解」という本来の意味だ。

「それを越えることはできないという意味で、本当に敬意を払っているのはクラシック音楽だけかもしれないな」

ホセ・ルイスとはほとんどずっと一緒にいたが、音楽以外の話はあまりしなかった。

彼は紛れもない「音楽家」であり、それ以外には興味がなかったからだが、レコーディングが終わって、長い長い退屈なトラックダウンが始まると、待ち時間が異様に長くできたこともあって、少しずつプライベートなことや、キューバのよもやま話を聞くことができるようになった。

女の嫉妬心について話したことがある。

夜遅くクタクタに疲れて帰ってくると、勝手に想像して、「犬がどうした、子供がどうした」と文句を言う。そういう女は最低だ、ということで意見が一致した。

悪妻が芸術や科学を生む、なんてのは大嘘だ。

ところで日本のヤキモチ女は寝ている時に首をしめるくらいだが、キューバだと、チンポコを切り取ったり、ガソリンをかけて火をつけようとしたりするのがいるそうだ。

ある偉大なルンバ歌手がいるが、彼女もチンポコを切り取ったことがあるそうで、四年間、刑務所に入っていたが、今はカムバックして、元気にルンバを歌っている。
切られた方も、元気に街を歩いているそうだ。

日本だったら、猟奇事件として、何十年も語り継がれることだろう。

そのあたりが日本とキューバの違いなのである。

NGのベーシストはフェリシアーノ・アランゴといって、何というか、エネルギーはこういうものなのだろうと納得してしまうようなタイプの、超元気者である。

今まで私は、これほど元気のある人間に会ったことがない。

もちろん元気なだけじゃなくて、頭もいい。ベーシストというより、ミドル級のポクサーのような顔とからだをしている。すごいプレーをして、よく食い、よく飲み、周囲を笑わせ、自分も笑っている。

「どうしてそんなに元気なんだ?」といつか聞いたら、「人間だからだ。」と答えた。

すごい答えだ。

その答えを私は絶対忘れないだろう。

ザ・ベストマガジン(KKベストセラーズ発行)より転載
村上龍

 


José Luis Cortés (Voz/ Flaute)
Tony Calá (Voz)
Mariano Enrique Mena (Voz)
José Miguel Crego (Trompeta)
Elpidio Chappottin (Trompeta)
Germán Velazco (Saxófono Alto)
Roland Pérez Pérez (Saxófono Tenor)
Miguel Angel de Armas (Teclado)
Rodolfo Argudin (Piano)
Feliciano Arango (Bajo)
Calixto Oviedo (Bateria/ Coro)
Juan Nogueras (Tumbadora)
Pablo Cortés (Bongo)
Guillermo Amores (Güiro)


Dirección General y Producción Musical : José Luis Cortés

Grabación y Mezcla : Tatsuya Morokaji
Asistente de Grabacion: Atsushi Hattori
Grabado en Keystone Studios, Tokyo
A & R : Ryoichi Takahashi

Foto de la Carátula: Brassaï
C Gilberte Brassal/ Todos Los Derechos Reservados/ PPS
La foto fue escogida por Ryu Murakami
Dirección Gráfica: Hiroaki Nagai
Diseño: Makoto Yamamoto
Coordinación Gráfica: Kazuko Sanbo
Fotos: Gen Yamamoto y Atsushi Kondo
Traducción de texto de canciones: Yvonne Moreira y Haruhiko Kono
Agradecemos a Haruhiko Kono, Yukiko Yoshino, Ikuo Nabeta, Michlyo Kimura, Carmen Mayans, Juan Carlos Amador, ARTEX y Fuji Pacific Music

Producer General : Ryu Murakami