魔女|ラ・ブルッハ
NGラ・バンダ
1994年


1. Te pongo mal, camara|おまえをコントロールするのはこのオレさ
2. Mañana |マニャーナ
3. La película del sábado |土曜日の映画
4. Ya llegó la hora |今こそ、手を差しのべるべきだ
5. All of me|オール・オブ・ミー
-S. Simons-G. Marks-
6. Marinero soy |オレはマリネロ
7. Un sueño terrible|恐ろしい夢
8. La bruja|ラ・ブルッハ・魔女
All Songs Written by José Luis Cortés except “All of Me”


ベルリンの壁が崩れた時、終わりを告げたのは冷戦という政治的な構造だけではなかった。音楽のジャンルやカテゴリーも音を立てて無に帰したような気がする。つまり、ヨーロッパの文化とアメリカン・ポップスという拮抗していた図式はもうないのではないだろうか。

例えばジミ・ヘンドリックスとダニエル・バレンボイムの間に、表現者としての境界線は既にないと思う。素晴らしいミュージシャンと、そうではないその他のクズ、がいるだけなのだ。

アメリカ合衆国との政治的な対立が主な理由だが、キューバの音楽状況に関してはほとんど知られていない。熱心なラテンファンでさえ、現在の正確な情報を掴むのは相当に難しい。

革命前のキューバは、誰もが知っている通り、ビートとダンス・ステップの宝庫だった。

ルンバ(キューバではソン)、マンボ、チャ・チヤ・チャなどが全世界に広まったのは今だ記憶に新しい。

さて、革命後はどうだったのだろう?

革命後のキューバのミュージック・シーンはさまざまに変化したが、革命前との最も大きく重要な違いは、「教育」についてである。

革命以前のミュージシャンは、ほとんど音楽的教育を受けていなかった。なるべく早い時期にナイトクラブやキャバレーに出演して稼ぐ必要があったからである。革命後キューバにはいくつかの芸術大学ができて、チェコやハンガリーからクラシックの教授が招かれ、才能がある子供達は無料で十年間近い教育を受けた。

もともとキューバ音楽のルーツは、ジプシ一音楽を中心とするスペイン系と、ナイジェリアを中心とするアフロ系が融合したものだが、革命後それにクラシックの技術が加わったのである。そういう音楽状況から現れて、リーダーシップをとったオルケスタが、フアン・フォルメルひきいる「ロス・バン・バン」であり、またチューチョ・バルデスひきいる「イラケレ」だった。

二つのバンドは、実験的な音楽、つまりロックとキューバンのフュージョン、ジャズとアフロキューパンのフュージョンなどを繰り返し、特に「イラケレ」は、さまざまなジャズ・フェスティバルで注目され、グラミー賞も得た。

そして、その二つのグループを経て、自らのバンドを作る天才児が出現する。

彼の名前はホセ・ルイス・コルテス、「トスコ」という愛称を持つ、フルーティスト、作詞・作曲家、アレンジャー、バンド・リーダー(ダンサーでもある)だ。「トスコ」は、十八歳でロス・バン・バンに参加し、十年間在籍した。その後、イラケレに、六年、その間に残したフルートのインプロビゼーションは信じられないくらいすばらしいものばかりである。

八六年、「トスコ」は、同世代の仲間を集め、「シグロ」と「シクロ」のシリーズで知られるジャズ・フュージョンの実験を繰り返す。その集団はニュー・キューバン・オールスターズと呼ばれ、後に、ヌエバ・ヘネラシオン・ラ・バンダ(ザ・バンド・オブ・ニュージェネレーション)と正式な名が付けられた。野球やボクシングでも明らかだが、底辺が広く層が厚く、キラ星のような先輩大物ミュージシャンがいるキューバで、「新世代」を宣言するのは、並大抵なことではない。

圧倒的な才能と、リーダーシップがないと、誰もついてこない。

「トスコ」は、恐ろしいほどのフルートの演奏技術と、ジャズやクラシックの方法論を含む作編曲の才能と、強烈な個性と、それにキューバ音楽への愛を持っていた。

彼のもとには、キューバを代表するボ-カリスト、ミュージシャンが結集している。中でも、キーボードのミゲル・アンヘル、ベースのフェリシアーノ・アランゴ、ドラムスのカリスト・オビエド、四人のホーン奏者、ボーカルのトニー・カラは、間違いなく、キューバ最高の才能を持つ。

NG・ラ・バンダ(ヌエバ・ヘネラシオン・ラ・バンダ)は、アフリカの野生動物のような力強さと、精密機械のような正確さ、それに美しいメロディラインを合わせ持つ、スーパーバンドである。
ジャンルやカテゴリーが崩れる時、本物が求められる。NG・ラ・バンダは、キューバの野球のナショナル・チームのようなものだ。

サルサというコンセプトをはるかに越えて、「フュージョン」という言葉の持つ本当の意味を明らかにする。

村上龍


NG La Banda
José Luis Cortés (Voz/Flaute)
ホセ・ルイス・コルテス(ボーカル/フルート)
Tony Calá(Voz)
トニー・カラ(ボーカル)
Mariano Enrique Mena(Voz)
マリアノ・エンリケ・メナ(ボーカル)
José Miguel Crego (Trompeta)
ホセ・ミゲル・クレゴ(トランペット)
Elpidio Chappottin (Trompeta)
エルピディオ・チャポッティン(トランペット)
Rafael Miguel Jenkes (Tenor)
ラファエル・ミケル・ヘンケス(テナーサックス)
Roland Pérez Pérez (Saxófono Alto)
ロランド・ペレス・ペレス(アルトサックス)
Miguel Angel de Armas (Teclado)
ミゲル・アンヘル・デ・アルマス(キーポード)
Rodolfo Argudin (Piano)
ロドルフォ・アルグディン(ピアノ)
Feliciano Arango(Bajo)
フェリシアノ・アランゴ(ペース)
Calixto Oviedo (Bateria/Coro)
カリクスト・オビエド(ドラム/コーラス)
Humberto Sosa Acosta (Tumbadora)
ウンベルト・ソサ・アコスタ(トゥンバ)
Pablo Cortés (Bongo)
パプロ・コルテス(ポンコ)
Guillermo Amores (Güiro)
キジェルモ・アモーレス(グイロ)


Produced by : Ryu Murakami
Sound Produced by : José Luis Cortés
Recorded & Mixed: Ramón Alom Suarez
: Sinpachirou Kawada (Music Inn)
Mastering Engineer: Kazumi Sugiura (Sony Records)
Art Direction & Design: Tomoaki Sakai (Blancchic)
Illustration: Harumi Yamaguchi
Photographer: Atsushi Kondou
Translator : Yukiko Yoshino
Production Service: Ayuko Yamada (Sony Records)
Promotion : Naoko Kodama (Sony Records)
Mamiko Kuroda (Sony Records)
Supervisor: Ikuo Nabeta
Tamio Suzuki (Sony Records)
Special Thanks to Genichi Yamamoto (Shueisha)
Takuro Kawanabe (Music Inn)
Hiroshi Nobue (TFM)
Motomitsu Tada (TFM)
Haruhiko Kouno
Sadayuki Kurawaka (SMASH)
Recorded at Music Inn Yoyogi Studio, 1993. 8